逸れた夜 /服部 剛
 
その女(ひと)とは、ついに重なることはなかった。 
どんなに重なっても、何かが逸(はぐ)れていた。 

( 左手の薬指に、指輪が光っていた 

求めるものは、柔らかきぬくもりであった。 
それは、組み合わす手と手の隙間にあった。

瞳の内に瞳を映し
結んだ唇は
一時(ひととき)で離れた

( 消えゆくは、互いの間にたゆたう、微かな糸 

やがて、別れを告げた哀しい体は
独り夜に逸れて 
ファースト・フード二階の窓際から
千鳥足で路上を歩く酔いどれの唄に耳を澄ましながら 
夕餉(ゆうげ)の鳥肉を頬張(ほおば)っていた 




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