静止する声/こしごえ
 
その者はすべてを悲しくひきよせるという
そして誰も味わえない果実を実らせている
たったひとり)

わたしは縁(ふち)の無い波紋であり
行くあてのない
昨日が
おいでおいで
と手招きをする
明日(あす)は輝いていて
輝くばかりで
懐かしく薫る
ここは
うすら寒い
明後日(あさって)はさめて
死ねない老体をあやす身(むくろ)が
青黒くうずく真夜中で
うすら笑う
自らを
形作る核心は
無影な耕夫の
最後の夢みるかたちで
世界樹製の倚子にもたれていたが
広量な庭園に
黙認の風が舞いこんできたとき
ささやかな翼を広げて
無縁を描きながら宙空へ上昇していってしまった

(その時
かわいたくちびるが底までざわつき
仰いだ九月の空には
高く澄んでいる星夜が響いていた








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