(祈りの場所は遠く、はるかに離れて)/たりぽん(大理 奔)
 
祖父は
海軍士官学校の先生だった
手を合わせる横顔に
平和を祈っているのかと訊ねたら
そうではないと小さく呟いた

悔やんでいるのだと
小さく呟いて、そして
祈りは何も変えないのだと
祈りほど無責任なものはないのだと
あの戦争の時も
みんな祈っていたのだと

ひとりひとりが
平和に暮らしていく
その事実の積み重ねだけが
それをもたらすのだと

お前の使っている石油のせいで
戦争が起きているかも知れないと
思いながら生きなければならないよと
お前の食べている牛肉のせいで
餓えている子供がいるかも知れないと
考えながら生きなければならないよと
平和を祈ることを強要する人は
一番戦争から遠いところにいるのだと

だけど祖父は
何を悔やんでいるのかを
教えないまま逝った

私は今、
祈らないまま遠い落日を見る
未来に繋ぐ生をおろそかにして
有限の生を長らえることを
求めすぎて
それが
悲しくて、悲しくて

悲しくて、悲しくて




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