盆休み/蒼木りん
故郷に向かう電車で
斜め向かいに座った男性は単行本に夢中だった
その人が
かつての同級生
しかも
思春期に
恋焦がれてラブレターを送った相手だったりしたら
と
帰ってきた家で
ほっとした時間に思い出す光景
絶対ちがう
見ず知らずの男性でありますように
夕方まで
きっちり仕事をし終えて
疲れきった顔で
サンドイッチを頬張り
大あくびをかまして
ゆるんでいた女
単行本を読んでいるフリで
一度も顔を上げなかったその人
たとえ
逆の立場でも
わたしもそうする
見てみないフリ
聞いて聞かないフリ
フリフリ
フリフーリ
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