気がかりな会話/木立 悟
 





「ようこそ」
「君の顔の前に浮かんでいるのは何?」
「ガラスだよ」
「いま左手でガラスの右のほうを
 右手で左のほうを引っ掻いたね
 でも何も音がしなかったし
 ついたはずの傷も消えてしまった」
「ガラスが勝手に傷ついたふりをしただけだよ」
「いつまでそんなふうに浮かべているつもりなんだい」
「ある夜目がさめたらあったんだ。それ以来ずっとさ」
「答えになってないよ」
「答えるつもりはないよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「時々想像するんだ
 このガラスが箱のように僕の頭を包みこむ日のことを
 僕以外の人間の顔を映しだす日のことを
 その度に僕はまったく常識的に脅えてしまい
 ガラスは次々と色を変えては僕を嘲笑うのだ」








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