ノート(けだものの日)/木立 悟
 

空の紅い光の渦が
おまえの扉を照らしている
こちらにも向こうにも何も無い
おまえはそれを知っているのに
おまえはそれを知っていたのに



おまえの家におまえはいなかった
すべての笑いと悲しみのなかにも
あらゆる満足と不満足のなかにも
おまえはかけらもいなかった



外に出ると道は火に囲まれていた
燃える扉を幾つも幾つも蹴破ったとき
おまえは火傷をえぐる声を聞いた
「汝は汝を喰らうものなり」



道がおまえを追い抜いていった
幻さえおまえを見捨てていった
なにも無い風景におまえは立つ
かすかに残る傷の色を目に映す



駆けつづけるがいい
哭きつづけるがいい
血に風が混じるまで
骨に涙が混じるまで




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