無い/渡邉建志
無いは呟いた。無い。無い。人も無い。ガラスも無い。才能も無い。電車。連結部の狭いドアとドアの間に挟まって、閉じこもって、耳もヘッドフォンでとじて、マーラー聴きながら、無い。無い。右足と左足が揺れる。頭が揺れる。兄のペニスの上で揺れる。塩辛い。けれど自分の味とは違う。閉じられた。私は閉じられた空間を持っている。兄は開かれた先端を持っていると思った。赤い蝶々。地面から飛び上がっていく一匹の赤い蝶々。一匹の、いや、蝶々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)