ノート(それがなにかわかりません)/木立 悟
 



家のそばに浮かんでいる
家と同じかたちのふちどり
それがなにかわかりません


晴れた日にも曇りの日にも
空に無数にきらめく粒子
それがなにかわかりません


まじわりの途中でも訪れるもの
書きとめるために投げ出されたまじわり
それがなにかわかりません


ひとりでひとりを憎みながら
ひとりでひとりを選んでいる
それがなにかわかりません


言っても言わなくても伝わらないもの
伝わることなどけしてないもの
それがなにかわかりません


わたしのからだはどこにもなく
わたしに良く似た容れ物がある
それがなにかわかりません


つねにつねに外からだけ来て
ぽつんと内にたたずんでいる
それがなにかわかりません


いつも感じるわけではなく
いつもがいつもを流れてゆく
それがなにかわかりません


たいせつなものもひともなく
変わりつづける迷い火を追う
それがなにかわかりません


誰もいない容れ物を
遠い音が歩いてゆく
それがなにかわかりません





[グループ]
戻る   Point(8)