即興・・・TSDT/木葉 揺
何度時計をなくしただろう
その度、親や恋人に申しわけなくて
三時間部屋の隅で膝を抱えた
それでも時計は与えられる
ベルトを見て身が凍ったのを隠し
頭を下げて受け取る
ベルトを締める
また手首の血管が締め付けられ
呼吸が乱れる
青ざめたバス停で
ほんの一つベルトの穴をずらす
目を閉じて深呼吸する
ツイアビに兄弟と言われた私達の髪は黒く
太平洋を愛しているのに
パパラギ以上に腕時計を身に纏う
スイス人が「こんな遠くまでいらっしゃいませ」
それでもロレックスに眩んだ目には
世界水泳の世界陸上の画面は映らない
バスを降りて目的地へ
目的地はある
でも時計は既になかった
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