犬/蒼木りん
 
よく
生きてたな


ある日突然
白い犬がいなくなった
家犬だった
大型ゲージの扉が開いたまま空だった
それを見つめたままの幾日か過ぎたあと
ある日突然
家庭が崩壊した

哀しみが
哀しみのかたちのまま乾くと
死んだように生きて
いなくなった犬のことなど
まったく忘れていた
そこに家庭が作られ
刻んだ日々があったことも
見終わったビデオのように
夢を見ていただけのことだと

私はぼろを着て
ぼろ布のようなほころびのこころで
どこか
安堵する自分を受け入れていた
もともと
もともと自分は
こういうふうに生きるべきなんじゃないかと
セイタカアワ
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