カラメル/待針夢子
 
彼女の焼いたケーキは、ただ疲れたからだにわけもなくやさしかった。
 それは彼女のくちづけと全く同じで、
 僕の舌をぬりかえて泣きつかれた胃袋をずっしりと満たした。
 気だるいからだは共鳴して、静かに泣いていた。



 (境界線がないね、そろそろ潮時かもしれない。
  たぶん、それでも惰性で続いていくんだろうけど。)


 忘れたあとの焼けつく喉の痛みはきっとずっと捨てられない、
 全部ひとりよがりな気持ち悪い類のロマンチックだなんて気付いてる。


 もう泣くような駆け抜けるような衝動はきっと僕にない。
 だけどあの日とは遠いこの街で、
 死にたくはない。
 死にたくないよ。

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