こだま/蒼木りん
最後の新幹線が通り過ぎた
轟音と
鉄の響きのこだまは
いつもその間だけ
私を別の場所へ連れて行く
烈風のごとく走り抜けて
窓の外の世界は
時間の流れを無視して飛んでゆく
そんな忙しい眺めと
車内の緩やかさは対照的で
強化ガラスと
金属の壁一枚で分かれているだけだ
静かに
けたたましく切り裂いてゆく
多分
あの最後の新幹線に
彼は乗っていない
クリスマス間近の眠らない街で
ひとり
泣いているかもしれない
もしかしたら
笑っているのかもしれない
どちらにしても
ここに居る私の胸は苦しい
まっすぐに
まっすぐに
どこまでも
どこまでも
東西を分けつづける
巨大なコンクリートの列
鉄のこだまは消えて
夜にほんとうの静寂が来た
嘘をつき続けることは
疲れ続けることだ
天秤は傾く
私のためだけでなく
離れてもいいと思う
戻る 編 削 Point(0)