ばあちゃんは髪結いになりたかった/蒼木りん
 
ばあちゃんは髪結いになりたかったのだと聞いた

襟足を剃ってもらった
花嫁になるでもない子どもの頃に

髪結いの修行のために東京へ向う前の日
じいちゃんと結婚することが決まった

ばあちゃんはむかしは娘だった
髪結いにならずに嫁にいった

手ぬぐいをあてがって石鹸をこすられ
剃刀の刃がヒャッとする

ピンク色の貝印だったか
よぎる恐怖を信頼が覆う

自分の手の甲に剃ったものをこする
手ぬぐいで私の襟足を拭くために

洗面器にはお湯
あったかい手ぬぐい

拭いたあとに
ちょっと寒い襟足

じいちゃんは
自分の葬式の日に戦地から帰って来た

五人の娘と二人の息子と
七回も子どもを産んだ

あの
でっかい顔の叔母さんたちが娘だ

ばあちゃんは
はじめっからばあちゃんだった




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