しなびた檸檬/蒼木りん
しなびた檸檬は
れもん色の艶も無くなり
おばさんの皮膚になった
お尻はすぼんでいる
いま切ってしまわなければ
果肉さえ不味くなる
でも
おばさんを切れない
このまま
庭の土に埋めてしまおうか
内に抱いた種ごと
土の中で
種ごと腐ってゆくのか檸檬
いま雨が降っている
生まれてきたなら
半分から後は
朽ちて死に向う定め
皆
蜂の巣のような
虹色のライトに照らされて
籠の中で宝石のようだった
いま檸檬は
若いガスを放ちおわろうとしている
そしてもうすぐ
腐敗のガスを放つ
ただ眺めていたかった
手元において
その皮膚の内にある
痺れる刺激とは裏腹の
覚醒する甘い香りを想像して
今日は雨が降っている
檸檬が
しなびてしまった
もう
こんな日が来てしまった
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