桃色霞/蒼木りん
 
冬晴れの日の夕暮れは
裾が桃色の霞がかっていて
焚き火の白い煙低くなびいて
それは今日が穏やかだったことを
私に教えている

白い犬は躊躇を止め
黒い目を真んまるくして
きょとんと首をかしげる
見つめるとしずかに
のそのそ傍に寄って来る

私は忙しいふりをして
小走りに会社の階段を降りた
しのぐ演技も大変だ
気乗りしない結合のように
薄々バレてしまいそうだ

あるいは
既に勘付かれている
たった二人からでも始まる
付加する感情は伝染し
金や地位や名誉に翻弄されている

この組織の中では
一人で生きることは容易ではないので
制度に乗っかってみけれど
それも予感どうりになってしまって
胸の玉は浮遊するばかり

真昼間っから
こんなホテルにしけこんでいるのは
どこの誰なんだか
そこらじゅうの男と女が
みんな嘘つきに見える

いつの間にか
この世はすっかり
別の次元にすり替わってしまったみたいだ
たぶん
あれが出来た頃からだろう

桃色霞の向こう

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