狼煙/木立 悟
もうずっと長い間
止まったままの時計に向かって
話しかけてきたような気がする
まぶしい午後の光のなかで
ずっとずっと独りで
引き出しが外れて飛び出して
つぎつぎと重なり そびえ立つ
引き出しのなかはひくひくと
うごめくようにかがやいている
焦げくさいにおいはなくならない
どこまでもどこまでもついてくる
慣れていくしかないのだろう
燃えては消える自分自身に
空を見上げて星を呑めば
恐れる心は少しなくなる
消えかけた道を歩くと
消えかけた崖が現われ
霧の音に揺れ動いている
身体から煙が立ち昇り
霧の源へと消えてゆく
伝えるものもなく
伝わることもない狼煙のように
崖の上に立ちつくし
遠い光の時計を見つめつづける
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