ノート(埠頭)/木立 悟
 


わたしは何かを見に来ていた
一匹の蝿
一羽の鳥
空は空に
海は海にひとつずつあり
遠くも近くも聞こえずに
陸へ陸へと近づいていた



ひとつがひとつのまわりをまわり
遠くのかたちだけを届けていた
何もかもを禁止する人工に
波は簡単に消されていた
ぐるりと長い流れのひとつを
小さな波がまわりつづけていた



一羽が陸へ行ってしまうと
海の上に一羽現われ
鳥はいつまでも一羽だった
雨が強くなり
灰は少し紫になり
近くはますます聞こえなくなった



左まわりに消えては現われ
消えて 消えて 現われても
波は曇を見ていなかった
風も雨も見ていなかった



わたしは何を言っていいのかわからなかった
わたしは何を見ているのかわからなくなった
それでもわたしは何かを見ていた
わたしは
わたしを見に来ていた






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