立春/嘉村奈緒
 
あなたは、
簡素な手順でわたしの胸倉を開き
匂い立つ土足
こればっかりは慣れないものです
その度に鮮やかに毟られる


あなたと遭難したい
篭って
香しき動揺が眼に見える位置で
わたしの胸倉なんて
いくら盗まれてもかまわないのだから
春が来ないね、なんて
言わないでください
けれど


剥き出しのわたしにあなたは興味をなくす
あなたが去ると わたしは悲しい
来たときよりも簡素な手順で
あなたはわたしの胸倉を閉じる


そうして閉じられてしまったわたしは
もう春になるほか 位置がなくて


戻る   Point(38)