無言/結城 森士
「斉藤さん、ちゃんと仕事しないとダメだよ。皆、頑張ってるんだ。突っ立ってないで、それ運んでよ」
感情の見えない斉藤さんはやる気のあるのか無いのか分からない低調な声で答える
「はーい」
主任は続けてまた言う
「斉藤さん、ほら。すぐ動く」
さっきとほんの少しも変わらない調子で
「はーい」
誰も何も言わなくなり静まり返った部屋の中
壊れたテープレコーダーが何度も同じところを再生するかのように
斉藤さんはもう一度、寸分の狂いもなく、暗い声で「はーい」と言う
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