コール・アウト・ミー/かのこ
 
吐息でしか呼ばれない名前があって
あたしはこれまで彼女の手によって
数々の眠れない夜を越えてきた
けれど、近頃はめっきり彼女を必要とせず
夜をやり過ごせるようになった
おそらくこの先、大抵のことがあっても
もうあたしは大丈夫だ、生きていける
どんな大失恋をしても、痛手を負っても
もう大丈夫、手首を切ったりなどしないだろう

夜が正しく明け、朝が正しくくるに従い
カーテンという物質をいとも簡単にすり抜けて
襲いくる光に、彼女の輪郭は薄れ
あたしはもう吐息しか吐き出せない
確かな重みと質感を持った声では呼ばれない
名前の有意義を失った彼女はやがて
この枕元に少しずつ滲み込んで
夢の中からあたしに涼しい息を吹きかける
今のこの生活に一本の美しい脊椎を通す

きらきらと輝いて今も
その薄い線がこの傍らで
消滅した存在を主張している
私を呼んでと、声にもならない叫びで
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