ショパンとあなた/美砂
 
はじめて
青い本の表紙に
CHOPIN
という文字を見いだしたとき
その下にショパンという名前を確認したとき
華やかな、うわずったような気もちが、
早く弾きたいという、せっつかれるような気持ちが
おきたでしょう、あなたにだけでなく、
先生にも、あなたのお母さんにも、
それまでピアノを続けてきただれにでも

たしかに……ショパンは感傷的かもしれない
女々しく、しとしとと濡れて
おまけに、あまりにも弾かれすぎて
消耗してしまったように感じられるときさえある
ああ、またか、と……
だが

ショパンのきこえない
ピアノは
あなたのもとにたどりついた
運命をまっとうしていない

こころみに、まだおぼつかないその手で
最初の一小節を弾いてみると
少し悲しくなりませんか、
ここからはじまる道のあまりの遠さに
ここからはじまる道のあまりの険しさに
ここからはじまる道のあまりの美しさに

あこがれは、永遠なのです


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