その火は点かない/小松 Anne
あの人が誰かにライターをあげたせいで
私はあの人にライターを奪われた
だから今、私は
見知らぬ人に声を掛ける羽目に陥る
「火貸して貰えますか?」なんて
私は自分を娼婦のように思うのです
だって
皆、私を通過してゆくだけ
なんだか笑顔だけが板についたから
これじゃあ
あの娘が持ってる人形と代わり映えしない
あなたの匂いが染みた枕カバーを
洗濯機に押込み
その回る音を聴いていた
なんて見事なのだろうこの天気
私の気持ちなぞお構いなしで
ベランダで揺れる洗濯物すら
やはり憎らしかったのです
昔持っていたZIPPOは
昔の人に壊されて
たまにあの重みが恋しくて堪らなくなるの、は
嘘だよ
記憶はいつも都合が良いから
夜に私はそれに寄添いたくなるだけ
それだけ
百円で、私を思い出す気になってる?
ピンクのライター
あなたのポケットにいて
狡いと思うのだ
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