「無題」/広川 孝治
確かに存在するのに
掴まえる事ができない
掴まえたと思った瞬間
それは形を変えてしまう
目の前に飛び出そうとしているそれが
ぎっしりと並んでいるのに
飛び出した瞬間
ほんの刹那
一瞬のきらめきと共に
去ってゆき
姿を変えて
無限に連なる者たちの列に加わってしまう
決して掴まえる事ができない
しかし確実に存在し
次々と
そう
この瞬間も
自分を通り過ぎている
無限に広がる未来と延々と連なる過去の間(はざま)で
繰り返しきらめきながら
とどまることなく
形を変えながら
流れてゆく
それを捕らえることができたなら
僕はきっと
時間の謎を
解く事ができるのだろう
そして
今を意識して生きる
人の心の謎を解くのも
それによって存在している
自己認識という謎を解くのも
きっと
それを理解する事にかかっていると
僕は思うのだ
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