未明の人影/clef
 
影がよぎった(気がした)
人間の背中らしきものが
ナトリウム光に立ちのぼる(あの人かもしれない)
もっとよく見えるように
闇に不透明な絵の具を流し込み
脳髄から松果体へと信号を送る(私の器官よ、働け)
視神経を励起させ
視覚を増感現像させたら
見えぬ背中が見えるようになる(かもしれない)

かの人の位相と私のそれは、どこかでずれていて
夢ですら巡り会ったことがない
その罪ゆえに赦しあえぬ恋人たちのように
崖の縁で深呼吸してみよう
深く息をすればするほど身体の中の袋は膨らみ
吐き出せないなら破裂する(その前に転落するかもしれないが)

心房細動するこころで網膜に捉えた背中を
増感現像する

闇でしか出会えぬということは
闇であれば出会えるということ

この時間にならないと書けないということは
この時間になれば書けるということ
    
       (ふたつのことは同価だったのだ)




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