『きつねの襟巻、人魚のうた』 第五章:沈黙の石/板谷みきょう
 
海には、潮の満ち引きも
届かぬ場所があります。

そこには、歌も、やさしさも、
願いも届きませんでした。

残ったものは、
名を持たぬ石でした。

石は動かず、語らず、
何も教えません。

ただ、そこに在りました。

時が重なり、
物語が語られても、
石は海の底に残りました。

光の届かぬ場所で、
救われなかったままのそれは
罰でも印でもなく、
ただの沈黙なのでした。
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