百鬼句集・赤色版/佐々宝砂
 
暑さゆゑ眠れぬと生皮を剥ぐ

炎天や毒蛇暴るる腹の内

息づくよどみに足をとられた

君がやさしく手をのべれば滴る血

くすりゆびだけのびあがり霧の沼

首無しが首締めてゐる芒原

工場伝説 ラインに生える 指、指、指

舌を見せ白き歯を見せ山笑ふ

シュレーディンガーの猫連れ地下の友が来る

てまねきは格子の向こう冬かもめ

霧の沼とつぜん響くファンファーレ

てまり唄死体はよっつ謎ひとつ

なげけとて月に言われてバカヤロー

肉喰へば肉の戦(そよ)ぐや虫時雨

のどの傷を月光に曝せ

走り去る無人のダンプ油照り

吐けど吐けど消えぬ緋文字や半夏生

窓割れてなにやら怪し霧の宿

モスラーやガバリと割れた繭がある

ものなくてもののけもなしあきのかげ

れんれんとあなたをしまう地下の檻

をみな泳ぐ水子蛭子(ひるこ)をかき抱き

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