蝶々/吉岡ペペロ
上陸し測量を始めるとすぐに汗はやんだ
ここまで来るあいだの乗り物のなかのほうが遥かに暑かったのだ
三人一組になってそのうち二人がレーザーポインターで位置決めをした
もうひとりがその距離を測っていった
俺はレーザーポインターを任されていた
山羊がでてきたら晩飯に食べちゃいましょう、
監督役の人間が和ませようと冗談を言った
俺は内心奴らに見つかるよりも
山羊の襲撃をおそれていた
だから山羊のことが気になってあたりを見回した
あしもとに蝶々がやすんでいた
おまえの国籍は日本なのか、
すると教科書にのっていた詩を思い出した
おまえは海を渡ってきたのか、
測量はあっというまに終わった
ゴムボートに乗ってさっさと島をあとにした
山羊、いなかったね、
蝶々がいましたよ、
ほんと?
蝶々鍋はまずそう、
監督役の人間がそう言って三人で笑った
ボートのエンジン音がやんだ
そしてしばらくお互いの偽名で呼び合いながら
あのクソ暑い乗り物が浮かんでくるのを待った
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