思い出のなかへ/吉岡ペペロ
恋人の心変わりを感じていた頃、辞表を出してくる社員がいた。
彼らはぼくをひどく傷つけた。
ひとのこころなんて分からないものだ。
思い返してみればそんなそぶりもあった。
そぶりかあ・・・・
人間嫌いがますます進んでゆく。
心変わりした恋人も、辞表を出してきた社員も、その後ちがう生き物になってしまった。
彼らとの未来はもうない。
同じ人類ではなくなってしまった。
ぼくは彼らの不幸を願った。
そしてその感情の毒にやられて苦しんだ。
やがてぼくはちがうものに心を向けていった。
それはひとではなかった。
神でもなかった。
記憶への同化とでも言えばいいのか・・・・
フォークナーの言葉を思い出す。
人が戻ろうとするのは場所ではない。
場所は、もう、そこに存在する必要すらない。
人が戻ろうとするのは、自分の思い出のなかへなのだ。
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