ぬるい抹茶/吉岡ペペロ
缶入りの抹茶だ
ぼくはぬるくなってから飲む
ぬるい抹茶の味を口のなかで反芻する
お茶のお稽古で飲む抹茶はいつもぬるかった
幼稚園ではお茶のお稽古があった
お茶のあと男の子ともめたことがある
腰をなんども叩いてきたからその子の顔を殴った
先生はぼくを叱った
ほかの子供たちもぼくをなじった
問題を起こしたということで
ぼくと男の子の保護者が呼ばれた
さきに来た男の子のお母さんが
うちのこが、ちょっかい出してたんでしょ?
ぼくはなにも答えなかった
お茶のお稽古、楽しかった?
うん、とだけ答えた
あのころぼくは
おばあちゃんに面倒を見てもらっていた
おばあちゃんが杖をついて
よぼよぼの最敬礼の格好で入ってくるのが見えた
ぼくは可笑しくなって不機嫌な顔をつくった
男の子のお母さんが憐れみの目で見つめていた
おばあちゃんがただ謝っていた
男の子がぼくを憐れみの目で見つめていた
缶入りの抹茶だ
ぼくはぬるくなってから飲む
ぬるい抹茶の味を口のなかで反芻する
幼稚園の名は仏さまのお母さんの名前だった
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