幽霊/夏嶋 真子
暑いでもなく 寒いでもなく
気温という言葉の存在すら忘れ 柔らかな光につつまれる春心地
昨日まで鈴なりに咲いていた桜花は 「全ては夢だ」といわんばかりに姿を消し
雀を思わせる褐色の枝々の隙間に 点々とゆれる葉の影でふいに少女と目があった
魅せられて私の足は少女へ向かう
「おまえは 誰?」
私が口を開くより早く少女は答える
「幽霊、桜幽霊 」
「幽霊?白昼堂々 足のある幽霊だって?」
音を形作る前の私の声に少女は答える
「わたしの足は桜の根 わたしの腕は桜の枝 わたしの存在は桜そのもの 」
微笑む少女の差し出した手を握ると
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