選ばれし歌/
吉岡孝次
守るべき君主はいない 少年の夏を照らした城下町にも
高い波蹴飛ばし歩く夕暮れにあによめとなるひとは手を振る
好きな娘の前では翼を折り畳む 仲間が傍を通り過ぎてく
受賞式当日なにもない沖をずっと見ていた 灰を流して
最強の九紫火星の男さへ病む冬の夜の雲は動かじ
冬の日は偽善までもが美しく響き一人を空と爭ふ
「もう誰も憎むな」歩み遅くして神の言(ことば)を抱きしめている
天と地の柔和な間隙(はざま)にたぷたぷと水たゆたへる創世の午後
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