あたたかないばら/はな
日に満ちた電車はそっと風になり火照ったほほをすりよせてゆく
夏に包まれた海の底の席で車掌が居眠りしつづけている
唇のはしからはじまる熱気にもあたたかないばら胸に抱いた日
ちぢみゆくがらす玉に手触れるように線香花火みおくる夜明け
まつげからこぼれ落ちるはマスカラと静かに降りる夜の帷と
冷蔵庫の奥に桃が呼吸して少しずつ泣く少しずつ泣く
聞き役はぽっぺんさんとオランダの風景画へと溶けてゆく蟻
水たまりどこまでも深く腕を入れ温かい手をそっとにぎった
新宿の南口には人並みとなみだあめがてんめつしている
風鈴の水際に音渡らせてささやくように消えてゆこうか
卵黄のきらきらひかる新盆はいくつものあしおとと暮れゆく
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