仮歌(かりうた)/木立 悟
 




またひとつ橋が作られ繋がれど私はどこにも繋がらずにいる




階段の踊り場の窓すぎるうた渡り鳥の声かぞえゆくうた




道ばたの雪のかたちに触れるたび光ふちどる佐保姫の雨




昼の曇午後の曇から降りそそぎ何も燃やさず春に満ちる火




耳から背背から腹へと尾を巡る荒れ野のような金のけだもの




春の陽と春ではない陽の境界を金に揺るがし駆けるけだもの




さかなにも風にも火にも羽はある囁きかける羽の手のひと




歩む背に凍てつくように放たれるかりそめの火矢かりそめの夢




かたくなな私の横顔ふるわせてふと笑い去る春は仮歌








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