海に沈む/永乃ゆち
『いつの日か魚になってあの人に食べられることそれが夢です』
海草が足に絡まり動けない傷付け合った二人の代償
唇は奪うものだと知った時魚の情事を悲しく思う
つま先が腐ってゆくの愛憎を換算したら魚になるの
どこまでも潜っていくの私たち激しく憎み激しく愛した
まつ毛まで塗らしてしまう高波の激しさで私を求めてみせて
真緑の海に浮かんでこの足をあなたに開く予習をしてる
私たちのセックスはまるで幼子の泳ぎの練習そのものだった
真っ白いシーツを汚す権限をポセイドンには与えてもいい
絡まった腕と足と重なった腰と唇 溺れてしまう
体液が私の中に入る時水をたたえた惑星になる
あの人との最後の情事のあと海がゆっくり部屋を満たしていった
羊水の中で眠った記憶ごと預かりあなたの永遠になる
海鳴りが二人を引き裂くものとして千切れた小指は折り重なって
『花束を抱えているのが目印です私をどうぞ釣ってください』
戻る 編 削 Point(3)