四重螺旋/本木はじめ
兄は崖ましたに見ゆる睫毛越し美意識以前の黒髪を抱く
弟が洪水前夜飲んだ水うしなわれてゆくものがけだるい
姉をさらえば十億年弥勒に届かぬ短き長さ噛み砕く
妹の髪梳く流れ見て溶けるアイスクリームの冷たき模様
兄は後悔ゆびゆびに燃える珊瑚の渦巻く模様に反転す
弟は二十四時間まえのわれ兄よ兄よと呼びかけるまで
姉は子供じみたブランコの夕暮れ砂山窒息を懇願す
妹は蜘蛛 網膜の結晶体のごときむらさき心中を果たせない
兄は京都落雷の嵐山付近にて見つけ出す春じみた変愛
弟を真向かいの教会からあふれ出すひとびとにさらけだす
姉がついばむ鴉のころも安価で売られんとするを拒む
妹は恋にやぶれて鋼鉄の銀の柱を操っている
兄が禁断症状発火する有機物に対して恐れを為す妹の脚
弟を埋める孕むことのできない選択肢を欲しがるがゆえに
姉がいない食卓の卵の殻や際限なき夜の降り注ぐ屋根
妹は大白鳥の食むの薔薇今夜はいばらの四重螺旋
戻る 編 削 Point(3)