点描/ことこ
 
濃淡を、くりかえしながら先割れのスプーンに近づいている朝


演じるということ、やさしさということ、おろし金から飽和する雪


質量をもってしまった画家はもう手のひらを返すようにかなしい


ましかくに凍えるような病棟でビニール傘を写生するひと


引き潮がさらわれてゆく静けさのなかで東京駅に降り立つ


連弾をしているずっと/ひとりきり はると見まごうプラネタリウムで


きゅうくつに体を折り曲げしあわせをちいさく握りしめている、猫


ちょうむすびしている春がこんなにもやさしすぎても誰も責めない


いちめんの菜の花畑で露光する(月光、液体窒素、
[次のページ]
戻る   Point(9)