四季/かぐら
淡雪の止みたるのちに会えたことなんども傘を振ってよろこぶ
漆黒の庭にさらさらとき充ちて空の底よりこぼれる花弁
ざわざわと嵐のなかの花となり座りこんでは夕景を観る
山萌えて取り残された心地して立原道造詩集をひらく
青草の苦味の中でふたりしてぶらぶら脚を揺らしていたり
あかあかと金魚ひとみの中泳ぎ胸に達するころには眠る
きのふまでかをりし花はきみの去るつめたき昼の傍にありけり
なぐさめは秋の小路に落ちておりふるえつつなお立ち尽くすのみ
黒髪の匂りの中に充たされていたこともいま木枯らしの先
秋のその名残りのために早起きしつないだ指をゆっくりはなす
はかなき肌へとそっと手をあずけ白樺揺れるように静かに
夕闇に白い地平はなかりけり目を閉じてきく枯草の波
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