「十六歳・最後の優等生」一(2010〜2010)/榊 慧
 
麦わらを被りて座る母の背に今日は夏日であったとおもう。

敗戦と聞き自害した青年の血のなき跡に自転車とめて

よろめいて叫ぶ彼らの声などが含まれたる潮戦後にならず

日本戦没学生の手記などを蛍光灯の下で読む夜

死ぬるときただの一人と哲学を持ちて無名の人を祈りつ

戦前も戦中も知らぬ薄れゆく戦後の我と亡き祖父おもう

祖父の背にすがりているは過去なのか長く遠くてだれも語らず

おじいさん、おじいさんと呼びなれていた十歳の綿みたいな記憶

墓前にてわしはもうあかんと祖父がつぶやいていたことを忘れぬ


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