春の気配に嫉妬/七波
 
泣いていることに気づいてほしかった 高い背中がやさしく揺らぐ


いつも無表情の君をゆるませる春の気配に嫉妬している


そのときがきたらやさしくころしてね 桜のにおいをまとうひとよ


魂の輪郭を撫でられている、と思わせる君との抱擁


花びらに似た君の手をつかまえる もう迷わなくてもいいように


雪がおちる瞬間、あなたの頬がゆるむのをみたような気がした。


臆病者と笑ってくれていいよ 怖いものは怖いんだからさ


泣いていいですか 初夏の水面はわたしに儚く光ってみせた


薄い唇がうたう季節は春 遠い記憶のむこうでゆれる

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