修羅を読む(8)/Giton
 
雲ひかる
野をおおびらに歩けたら
大きな帽子 風にうねらせて

    ☆

群青の森の水際
樹を裂(くだ)く 堅いまるめろ
栗のモザイク

    ☆

口笛に すゞめばら撒く ラグタイム
雲はつめたい カシュガル苹果(りんご)

    ☆

ぼろ上着 くわで溝截(き)る
雨あがり
あをい樹液と腐植のにほひ

    ☆

梨の葉に のこる雫を
もとめゆく
情炎はもう 水いろの過去

    ☆

野はひらけ
かれくさは とほく日に燃えて
樫の木ひとつ すみわたる海蒼

    ☆

穹窿の 透明な風
七時雨(ななしぐれ)
青い起伏は心象映す

    ☆

芦(よし)の野を がさがさ行けば
ぽけつとに
折りたたまれた みどりのてがみ

    ☆

叢林のくらがり歩く 脚に手に
小さな三日月 くちびるのあと

    ☆

白い苔 黒い岩塊
樺の金(きん)
とほく幾重の青い縞つづく

〔『春と修羅』第1集、読了〕

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