20P 「短歌2」より 昭和四十六年/むさこ
 

忘れ物思い出し歩を返し言う
独りごと人に聞かれし居しかも

凍る朝素足に草鞋の修行僧
声あげ行くに襟正したり

断絶と言わるる代に独り居の姑に
電話をすれば風邪ひき

家の建つ前を通るに口あけて
見上げてゐたり痴呆の如く

感激もなき日日にして目の前に
糸を伝いて蜘蛛がおりたつ


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