くらげ/這 いずる
 
君の音が途絶えてひさしく
陰か
陰に
陰だ
振り返った電信柱の裏に
光が眩しい曲がり角に
車窓の先にある河川敷を歩く人に
君がいた
幻が現実にかぶさって覆い
目は
正解を見た

これが真実
これが真実だ

狂気な君が
踊って幸せそうに笑って
私も幸せだった
だから

浮遊するように心地よくて
揺蕩いが私の耳を包んで
音も
深海のどこか遠くの響いて痛い
痛いような呼び声が
くぐもり届く奥底へ招かれ

海に気が狂った女の笑いに
波と潮にまみれて沈んでいくんだ
響いて痛い声が
君がいない、いる、いる

海藻の根本に絡まった君の声が
呼気をあげている
惑って探し求めた月日が
波音に慰められて流れていく

狂って飛び込んだ
月が差込む水面の下
白い揺らめく羽衣をまとった
うつろいまどう幽玄の
君が浮かんで
微笑んで刺す

君の羽衣を刻み
和え物にした


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