札束/饂飩(うどん)
 
一枚ずつ数えていくように過ごした貴重な季節が途轍もなく愛おしくて僕の頬を伝うのは残り梅雨、何もかもが新鮮な野菜に囲まれている、幼虫1匹として入る余地のない空間に隙間風が通る古いコインランドリーの前で、さっき飲み干したレモンティーの甘い箇所が喉に引っ掛かる僕を見て君は小さく笑う。
空の色とか温度とか覚えてない、君を見ていたから、君に触れていたから、何かを消費して手に入れる思い出の煌めきは本物だろうか、仕方ないことで悩むくらいに退屈な人生だったこれまで、変身したスーパーヒーローはきゅうりの余った水分でジワジワと僕の生活を浸食した、財布の中身がアルバムに侵食されたのはまた別の話。
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