墓──マザーロードから離れて/大町綾音
それは、ルート4からもルート66からも離れたところにある。もとよりこの国では、ヒッピー文化など無用の存在であるのだが、墓畔には花園すらもなく、23段の石段が地上とこの霊園とを隔絶している。代理で来たのだ──わたしは、「その人」のために、「参る」のである。花とともに置かれたいくつかのお菓子の包み紙。「その人」は食べていた……、老いて丸い背、聞こえない耳、か細くなる言葉。すべてがこの場所になじんで、遠くかすんで見える街のビル群ですら、彼にとっては、彼を彩るポリフォニーのようだったのだ。(わたしは歌う──否、歌わない。歌はもう必要ない)地の底へ下っていくかのようにも、寝所に静かに眠りにいくかのようにも、「彼」は階段を降りていく……。一瞬、「階梯」と書きそうになる、というのも、これは心の内部にある風景であり、それだからこそ世界なのだが、「彼」もまた物語のなかの登場人物めいて、残響として存在しているのだから。つまりは、そういうことなのだろう……。昨日あった答えを、わたしはまだ知らない。
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