ヴァイオリン/りつ
奏者は愛おしそうに
艶やかなボディをひと撫でし
ため息をついて弓を構えた
最初は軽く軽く
羽根のように優しく奏でる
ヴァイオリンは直ぐに応え
小刻みな小さな音で震え求めた
ヴァイオリンの反応を聴き
奏者は自信を持って
ヴァイオリンを翻弄し始める
低く深い音で満たしたかと思えば
高く浅い音で弦を弾き軋らせる
演奏は次第にクライマックスへと重なりあってゆく
ヴァイオリンが弓なりに弦を反らし音を求めた時
奏者は一呼吸おいてヴァイオリンを焦らし
深々と
どこまでも豊かに弓をしっかり放った
ああ、何と言う歓喜の音色であろうか
奏者とヴァイオリンがひとつになり
高らかにいのちの歌を共に共に
遥かな一瞬の永遠のうた
満ち足りた沈黙
奏者は思い出したように我に返り
再びヴァイオリンを愛おしそうに撫で
ゆっくりと微笑んだ
日本web詩人会 初出
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