声/栗栖真理亜
 
最近はめっきり聞くことのできなくなった
あの声

祖父が購読していた週刊誌に挟まれた
女の顔と富士山と訳のわからないものが
不揃いで並べられた不思議な絵

一瞬感じた引力のような力強い声に操られ引き寄せられ
ある種暴力的でエロティックで頭ん中を犯されたような妄想
体ごと攫われてしまいそうで足元がぐらつく

拐かしにも似たその声は
祖父の呼び起こす声でふっと霧散した

何事もなく時はまた動き出し
こころのフィルムの中で少し錆びながら
コトコト音を立てるけど
忘れた頃に逆さ周りして
懐かしく再生される
あの声
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