夏の喪失/栗栖真理亜
 
夏の匂いがまた今年も風に運ばれてくる
青臭い山の薫り
土臭い大地の薫り
記憶の中で蘇る
荒い息と混じり合う快活な笑い声
額や首回りの汗を拭いながら愉しい目的地に思いを寄せたあの高揚感

山道途中で見つけた土筆も山菜も
まるで目新しい宝でも見つけたかのようにはしゃぎ
嬉しさのあまり摘み取ってはポケットに突っ込んだ

あの時輝いていたのは爽やかに吹き抜ける新緑の風だろうか
それとも幼い記憶に閉じ込めた喪失の夢だろうか

ただ目に触れず感じるのは
いつまでも耳の内に隠る遠い遠い夏の羽音
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