歯医者/栗栖真理亜
平日十時頃の大通り商店街は人通りもまばらで
柔らかに陽に温められた風が頬を撫でる
どこからか蕎麦つゆの香りが鼻を掠めた
自転車を漕ぎながら私はその余韻を楽しみ
踏切信号が青で遮断棒がまだ下がらないままなのを
確認しながら線路の上を横切る
陰気なほど青白いコンクリート造りの建物
これが目的地の歯科医院が併設された診療所だ
私は入り口近くの自転車置き場に自転車を停めると入り口に入り
一階のミーティングルームに背を向け階段を三階まで一気に駆け上がる
歯医者は独特の薬品の香りだ
かすかにキーンと悲鳴のような機械音が聞こえる
最近やけににこやかな笑顔で応対する受付の女性に受診
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