雪はふらぬ/森 真察人
雪はふらぬ
ふしくれだった両の手で
光りを掠(かす)めるあたしには
手袋を渡す左手や
右手に残った火傷痕
そういうところに 雪はふる
雪はふらぬ
ペダンティックに錆びついた
あたしのちいさな身体(からだ)には
凄まじい夜間灯の下 道を拡幅(かくふく)するひとの
ぷつりと切れる筋繊維
そういうところに 雪はふる
雪は
その永久(とこしえ)の構造と
不変の輪郭とでもって
羊の腐った古傷を
羊のために癒やしゆく
雪はふらぬ
子山羊のように罪深く
光りを貪るあたしには
朽ちた誰かの制帽を その持ち主のためにのみ
金網に掛けるひとの光り
そういうところに 雪はふる
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