冬ネズミ/本田憲嵩
ネズミ、
ひとつに特定できない冬の死、
風のつよい日に、灰色の体毛さえ靡かせず、
そのままで凍(しば)れきった、
ひとつのからだ、
まるで縁石の上に乗りあげて、
横転してしまったちいさなバイクのように、
横死しているもの、
氷(たましい)、
という水晶のような冬限定の宝石が、
午後のよわい陽ざしに晒されて、
ぼんやりと輝きながら、
少うしずつ少うしずつ冬の寒空へとのぼってゆく、
そんなふうに、
冬はまず温める所から始めなければならぬから、
手間と時間がなにかと掛かってしまう季節、
そんなふうに、
冬はとても凝り固まった、とても寒い面倒な季節、
ああ 暖房がとても暖かい、
戻る 編 削 Point(5)